カオス―断片 | 17:13 |
「 それは黒江の眼には、まるで自分で部屋の片づけをしたことがない人間のする散らかし方らしく映った。黒江ならば、ぜったいにこんな部屋の散らかし方はしない。もちろん黒江にだって、部屋を散らかすことくらいはあるけれども、散らかすにしても炊事も洗濯も日常茶飯事的にこなさなければならない黒江にとっては、その散らかし方というのはもっと別の質のものだったといっていい。黒江はまだやっと十三に手が届いたばかりだけれど、二つ上の兄以上にそういうことにかけてはもう立派にわきまえていた。どういえばいいだろうか、散らかすならばあとで片づけやすいような散らかし方をするとでもいったらいいだろうか。正玄のような根本的な部分まで散らかしてしまうようなことを、無意識のうちにしないようにしている習慣が体に染みついているのである。だから、黒江が正玄の部屋に入った瞬間に感じた違和感は、まぎれもなくそういうタイプのものだったといっていいだろう。そのときの黒江は、こみあげてくる感情を、ぐっとこらえるようにして天井のほうを少し見あげていた。そんなふうにこらえていたのも、向こうへの気遣いや遠慮とかといった人道的な理由に動かされてのことともまた違うのだった。ちょっとしたものごとのはずみから感情が揺らいで、うるさいことをいうような女みたいに自分がふるまうのが嫌だったからである。」
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